僕がその時乗っていた電車が駅に止まると、4 歳ぐらいの小さな女の子と、そのおばあちゃんが乗り込んできて、僕の隣のロングシートに座った。僕が乗っていたのは電車の先頭車両だったので、女の子は最初、車両の最前部に立って、電車の進行方向を眺めていた。
しばらくすとると、女の子は立っているのに疲れてしまったらしく、おばあちゃんのところに戻ってきた。靴を脱ぐと、ロングシートに逆向きの膝立ちになって、今度は窓の外の景色を眺め始めた。女の子はどうやら帰宅途中だったらしく、だんだんと窓外の地理に明るくなるにつれ、おばあちゃんに車窓から見えている場所についてあれこれ話し始めた。
「あそこでね、○○ちゃんと追いかけっこしたんだよ。」
誰かと遊んだ道、お父さんの運転で通る道、その幼い女の子のレポートがおもしろく、僕も自然と窓の外を眺め、女の子の案内に聞き入っていた。おばあちゃんもその子の説明にあいづちを打ってよく聞いていた。
「あの黄色い建物わかる?あれはね、ホテルなんだよ。」
遠くの方に、5 階建ての黄色い建物がみえる。建物の 1 階にはカーテン付きの車庫の入口、そして縦長の電光掲示板に緑色の「空室」の案内。ホテルはホテルだがどうみてもラブホテルである。
「私はね、今まで一度もあそこには泊まったことがないの。でもね、お母さんは私が生まれる前に、あそこに 5 回泊まったんだって。お父さんなんてね、10 回以上も泊まったことがあるんだって。おばあちゃんはどう?」
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