アンドリュー・ワイエス展「創造への道程」福島県立美術館

アンドリュー・ワイエス「創造への道程」チラシ。
アンドリュー・ワイエス「創造への道程」チラシ。このチラシの肖像は自画像かと思っていたのですが、実は違いました。

福島県立美術館に所蔵されている作品をすべて知っているわけではありませんが、僕が見てきた中でも特に良いと思えたのが斎藤清の版画作品とベン・シャーン、そしてアンドリュー・ワイエスの絵画作品でした。今回、福島県立美術館で、アンドリュー・ワイエスの展覧会が開かれるということでしたので、楽しみにしていました。

アメリカン・リアリズムというカテゴリーに分類されるこの画家は、緻密で具象的な絵画が特徴的です。「光と影の画家」といわれ、確かにその明るさの表現や、光線に対する観察眼の鋭さなどは目をみはるものがあります。一見写真のように見える絵画も多いのですが、近くによれば寄るほど、信じられないぐらい細やかな筆さばきのあとを見ることができます。

そんな画風なので、とにかく手抜きがありません。編みかごはきちんと一本一本のひもが描かれているし、家の外壁の板も一枚一枚正確に描かれています。肖像画に至っては、無精髭の一本一本まで描かれているような具合です。とにかく、他の画家ならとるに足らないものとして省いてしまうようなディティールを、とことん書き込んでいます。面白いのは、どうやらそうやっているうちに「とるに足らないもの」の方に愛情を注ぐようになってしまうらしいこと。自分の奥さんをモデルにして絵を描いていたはずが、いつの間にかその奥に描かれた自宅二階の窓が主人公になってしまったり、卵を計量する場面を描いているうちに卵の計量器自身が主人公にになってしまったりと、変わったものに愛が注がれている作品が目立ち、しかもそれがとってもかわいい。

絵画に関しての自分の無知ぶりをさらすようで恐縮ですが、習作の多さに驚かされました。一つの絵を完成させるにあたって、鉛筆書きの習作が 3~4 枚、水彩の習作が 1~2 枚、そして完成作品、という展示の流れが目立ちました。水彩が中心だから、ということも関係しているのでしょうけれども、これだけの画家でも、あれだけの秀作を重ねて作品を完成させるのだと知って、ちょっと安心しました。なんだ、僕が一曲を仕上げるために数十曲没にするのは、別におかしくないんじゃないか 😉 という具合に。

展覧会の最後に、インタビューが上映されていました。その中の画家の言葉に感銘を受けました。「想像力が刺激されたなら、すぐにでも行動しなければならない。」僕もそうありたいと思います 😉 。

画家は、この展覧会の開催中にお亡くなりになったそうです。今年 90 歳を迎えていた画家は、亡くなる寸前まで創作活動を続けていらっしゃったようです。ご冥福を心よりお祈り申し上げます。


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